"苦痛"を感じる上司との会話に共通する、2つの欠如している要素とは。




最近人と話している中でよく相談されることがある。

『会社で、上司と同じ内容を何度も話すのが苦痛なんですよね』


実際、それは組織内でよくあることだろう。

業務的なことで毎回同じ内容を話すのなら「いや、前回話して解決策決めたじゃん」みたいに不快感しか生まない。
よくあるのが、毎週の定例の打ち合わせで同じことばかり話す、、、というものだろう。


だが、そもそも会社での人との会話というのは、単に業務のことだけではない。

『シリコンバレー式 最強の育て方 ー人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティングー』
という本の冒頭では、要約するとこんなことが書かれている。

組織ではコミュニケーションが大切だと言われるが、そもそもそのコミュニケーションは「結果を出すための情報交換」に終始しており、「個人に焦点を当てた会話」が圧倒的に少ない。本来は、その「個人に焦点を当てた会話」もとても重要であり、そこを行うのもマネジメントなのだ。

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冒頭の相談に戻ろう。
ここでいう同じ会話が繰り返されるというものが、業務的なもの、つまり「結果を出すための情報交換」であるならば、それは単に生産性が低いことに当たるはずだ。

ただ、これが「個人に焦点を当てた会話」である場合、同じ内容を会話することが悪いものではない、、、
というのが私の持論だ。


もちろん、「個人に焦点を当てた会話」としても何度もするのはおかしいこともある。例えば、
・出身地は?
・大学時代にやっていたことは?
・今どこに住んでる?
・兄弟構成は?
・好きな食べ物や嫌いな食べ物は?

のように、答えがいつになっても変わらないものだ。
こんな項目を何度も聞かれたら、おそらく相手の記憶力を疑うだろう。


ただ、こんな項目はどうだろうか。
・3年後にはどんな人になっていたいと思う?
・今、とても困っていることって何かな?
・10年後にはどんな生活をしていたいと思う?
・今、どんな人に憧れるかな?

これらの項目は、その都度答えが変わるし、特に正解というものもない。
このような正解のないものに関しては、何度も話すことはむしろとても大切なことではなかろうか。
何度も話すことによって、自分の中の答えが明確になっていったり、より良く学習・変化していくと思うのだ。

ただ、正解がないような項目を聞いていくとしても、正解がない項目であれば全て良いのだろうか。
正解がないとしても、学習・変化できるレベルは問いによって異なるのではなかろうか。




『マッキンゼーが教える 科学的リーダーシップ』
という本の中には認知神経科学的に学習・変化の脳への定着のさせ方について言及している。

その部分だけでも膨大な文量になるので、要約しよう。
以下3点を、その下部に記す。

・脳には可塑性がある
・ネガティブな感情は、脳の能力を低下させる
・ポジティブな感情は、脳の能力を向上させる

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・脳には可塑性がある

脳にはニューロンという神経細胞が存在する。その数、一千億個。そのニューロンの中には、神経伝達を送受信するシナプスがそれぞれ5000存在する。(1人の人間の中にあるシナプスの数は、とても膨大だ)そのニューロンは、常に変化をし続ける。というのも、2つの意味で変化をし続ける。

1:ニューロンは新たな感情を得るたびに常に分岐を続けてシナプスを作り続ける。つまり回路がどんどん増殖して、処理できる範囲が広がっていくのだ。
2:シナプスは、同じ感情を受け取る回数が多ければ多いほど、感度を上げることができる。つまり、同じ種類のものを受け取っていたとしても、1回目よりも複数回目の方がより正確に質高く量多く受け取ることができるようになるということ。これを繰り返すことで、次第にそのもの自体が脳に定着する、これが記憶だ。

要するに、新たな感情を取り入れ続ける/同じ感情をたくさん取り入れ続けることで常に脳は成長し続ける。


・ネガティブな感情は、脳の能力を低下させる

ただ、新しい情報が入ってくるからといって、同じものをたくさん取り入れるからといって、どんなものでも良いわけではない。その種類によって、その効果は異なる。

ネガティブな感情が入ってくると、恐怖を司る扁桃体が反応する。そうすると、新たな熟慮的思考や学習するという機能が働かず、本能、つまり元々自分に定着しているものが呼び起こされるのだ。これは、脳の能力を高める訳でもなく、原型に近い、基本的な状態に戻ってしまう。要するに、脳の能力が低下するのだ。


・ポジティブな感情は、脳の能力を向上させる

ネガティブな感情とは逆に、ポジティブな感情は上記のような2つの変化を脳にもたらす。常に進化をし続けるのだ。

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話を冒頭に戻そう。

『会社で、上司と同じ内容を何度も話すのが苦痛なんですよね』

こんな相談がきた時に、その会話が「結果を出すための情報交換」であれば、それはありえないだろうし、
「個人に焦点を当てた会話」であれば、それはもしかしたら必要な繰り返しなのかもしれないと述べた。

ここで上記のマッキンゼー社の本を絡めて考えてみると、「個人に焦点を当てた会話」だとしても、それが結果的にポジティブな感情を誘発するかがとても大事なことに気づく。


いくら相手に焦点を当てた会話だとしても、それによって相手が最終的にネガティブな感情をもってしまっては、おそらくそれは感情面的にも、記憶的にも、良くない。
むしろ、脳の能力すら低下させてしまう危険性がある。


これ、おそらく良くあることなのではなかろうか。

相手に立場に立って、思いやってみたが、なんだか会話が中途半端に終わってしまったり、ポジティブな方向性に持っていけずにさらにモヤモヤを強くしてしまうような会話。
新任のマネージャーしかり、あまり1on1みたいなものに慣れていないマネジメント層や、昔ながらのマネジメントに慣れている面々は結構この状態にしてしまう、、、そんなケースだ。


ただ、ポジティブな感情を持ってもらいながらに常に会話を完結させるというのは、結構な技術、力を必要とする。
しかも、その技術を一般論化できたとして、結局相手は人なので相互の相性の中でその一般論化した技術を適応することができるかどうかというところはとても難題だ。


でも、少なくとも、この『正解のない問いに対して思考し続ける』『ポジティブな感情を毎回持ち続ける』というものが学習・変化をもたらすことができる、、、というのはとても大きな方向性ではなかろうか。





『会社で、上司と同じ内容を何度も話すのが苦痛なんですよね』

こんな相談がきたら、まず最初はこう返そう。

『それはたぶん、正解が明確にあること/ネガティブなことを何度も何度も繰り返して上司と話しているからじゃないですかね。どうでしょう?』


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