ホットヨガのLAVAに通いながらも感じた、『行動経済学』の活かし方で大切な3つのこと。







以前よりこちらのブログに記しているが、私は今年の2月くらいからホットヨガスタジオのLAVAに通っている。


ヨガというものは紀元前2500年頃、インダス文明において発生したものだとされる。
日本での始まりは、平安時代。瑜伽(ゆが)と呼ばれる瞑想が中心のものだったらしい。

それが1990年代にハリウッドセレブを中心に世界規模のブームになり、それが日本にようやく伝播したのが2000年代前半。
日本でのヨガ人口が100万人を超えたのは、つい最近の2010年頃らしい。


もともと瞑想じみたことは茶道を学んだいた時からよくしていたし、昨今ブームのマインドフルネス的な状態も、意識はしていなかったものの気がつけば随分昔から好きだったので、
それを改めて別のジャンルでやってみるのは面白そうだなあと思っている最中、たまたま元同居人女子に誘われてLAVAに入会した。

もともとの気質的に合っていたのだろうが、かなり自分の感覚と合致し、2月から今に至るまで週2〜3で通っている。


そんなヨガ。
私の気質的に合っているというだけでなく、おそらくLAVA側が利用者たちに仕掛けている施策も私にいい意味でいちいち刺さっているのだろうと、そう思う。

以下、私が普段LAVAに通いながら感じる効果的な施策を羅列してみる。

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・受付で最初と最後にやりとりする際、確実に相手の名前を呼んでから、目を見て「ありがとうございました!」と言ってくれる。
 →名前を呼びながら自分だけに語りかけてくれるという感覚は、どんな人でも嬉しいものだ

・受付でやりとりする際、他の利用者が周りに多くない時は、様々な雑談をしてくれる。「今日のレッスンどうでした?」とか、「この前○○っておっしゃってましたけど、あれどうなりました?」とか、「そのバッグ可愛いですよね。他の方が持ってるの一切見ないですけど、なんてお店のなんですか?」などなど
 →利用者の思考の振り返り機能を果たしながら、心のどこかでこの人に今度また報告しないといけないからまた来よう、というような利用する動機を創っている

・メルマガの文章も、毎回タイトルから全然異なり、かつそれも全てフルタイムメンバーたちなら無料で参加できる目新しいものを創りながら誘い続けてくれる。だから毎回サクッとでも見る。
 →そもそも継続してフルタイム契約している利用者はヨガに絡む新しいことを求めている前提にたち、利用者たちが喜んでくれるような企画を創り続け誘致してくれるのは利用者としてもとても嬉しいし役に立つものだ

・ホットヨガのレッスンが始まる時も、途中でも、最後でも、全てその行動(ポーズ)を取る理由を説明してくれる。とくに、レッスンが始まる時の説明はかなり細かくかつ本当に丁寧だ。
 →人は、納得できないこと、効果がよく分からないものを嫌う傾向にある。この行動にはこんな意味がありますよ、と丁寧に教えてくれるのは、その行動をすること、ひいてはその場に来てくれる自分自身を肯定してくれているような感覚になる。また来ようと思うはず。

・レッスン中に逐一、ハッっとするような言葉をかけてくれる。「今のあなたのその動きの状態、心の状態をぜひそのまま受け入れてあげてください。」「一人一人、違う人なんですから、今できることもみんなそれぞれ違うのは当たり前です。」「目を閉じながら、過去の自分と未来の自分を線で結んで、その途上にいることを認識しましょう。」「イマココの瞬間を楽しみましょう。それが、あなたの心をつくっていきます。」
 →今のあなた自身が今の最高の状態なんだ。否定する必要なんてない。と伝えてくれます。この言葉言葉のタイミングでは利用者にどこまで刺さっているか分からないけれど、きっと利用者の身体の状態だけでなく、心の状態を安定させてくれる要素にはなっているはず。

・レッスン中の行動(ポーズ)が若干ずれている時は、触りながらきっちり修正してくれる。
 →しっかり直してくれると自分のその日の状態が、現在地がわかる。自分の今の状態というのは、意外と普段の日常生活の中ではわかりづらい部分も多い。それが、ヨガをするとその微々たる動きの違いで現れてくる。また、"触れて"修正してくれるというのもミソだ。日常生活をする中で、他者と触れ合うことなんてあまりないし、いい意味で一方的に優しく触れてくれるその感覚、手触り感というのだろうか、そういうものが人に与えるリラックス効果というのはかなり大きいのだなと実感する。

・レッスン終了後、入口で先生が1人1人の利用者が部屋を出て行くのを目を見ながらニコッと「ありがとうございました!」と言ってくれる。
 →これだけに限らないが、できるだけ1対1の関係性というものを構築する機会を増やしていることがとても伺える。1対多より、1対1の関係性が少しでもあるだけで、人の行動は変わるはず。
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とまあLAVAの施策について書いてきたが(上記は私の個人的な認知でしかないので、実際LAVA側がどれだけ仕掛けているのか偶発的なのか、他にどんな仕掛けがあるのかは分かりかねる)、
このような相手の心理を活かすという取り組みで今年さらに有名になったのが、『行動経済学』である。

『行動経済学』とは、、、
既に多くの人が認知していると思いますが、行動経済学というのは既存の経済学を補完する形で登場してきた学問です。
従来の経済学では常に完全な情報を持ち、合理的な行動が出来る「合理的経済人」をモデルにしてきました。
一方で、人間というのは実際そんなに合理的ではありません。
ダイエットや禁煙は失敗するし、いつも同じお店にばかり向かうし、今日だけ半額という文字を見かけたら買ってしまう。
つまり、従来の経済学で前提としてきたモデルと実態とが乖離しているのです。ここを補完するために、人間心理を反映した新しいモデルで経済を理解しようという試みが始まりました。これが行動経済学と言われるものです。
ー【ノーベル経済学賞受賞】セイラー教授と行動経済学理論:http://w73t.com/nudge/


これを提唱し、今年ノーベル経済学賞を受賞したのがシカゴ大学のリチャード・セイラー教授。

彼が新しく提言した理論的なものが、「ナッジ(Nudge)」というもの。

ナッジというのは「相手をより良い方向へ向かわせるために間接的に促すもの」のことだが、分かりにくいので具体例を出そう。


自動車保険会社でとある実験をした。保険料を定めるにあたり、顧客毎に前年の走行距離を報告してもらうことになっている。走行距離が長いほど、保険料は上がるという仕組みだ。
その際、「私の提供する情報は真実だということを約束します」と誓約する署名欄を、あるグループには書類の冒頭に記し、別のグループには今まで通り書類の一番下部に記したのだ。
すると、書類の冒頭で署名欄に記載したグループの顧客のほうが、より正直に申告するという結果になった。書類の一番下部に署名するほうが、保険料を下げたいあまりに走行距離を低く申告する傾向が高かったのだ。
ーThe Rise of Behavioral Economics and Its Influence on Organizations
https://hbr.org/2017/10/the-rise-of-behavioral-economics



これ、皆さんはイメージがつくだろうか。
この署名欄を冒頭に記すというものが「ナッジ」である。「相手をより良い方向へ向かわせるために間接的に促すもの」だ。
冒頭に署名を記すことで、彼らが自ら正しい発言をすることを促している。(嘘を仮についても、結局履歴からわかってしまい、嘘はバレるのだ。バレると、彼らのために一切ならない。結果、彼らにもポジティブな影響を与えている。)



逆に、悪い例も挙げよう。

Uberも同様の知見を活かし、ドライバーの行動に影響を与えてようとしている。なんと、何百人もの社会科学者とデータサイエンティストを雇い、ドライバーをもっと長く、もっと必死に働くよう駆り立てているらしい。それもそうだ、ドライバーの稼働量が多くなればなるほど、Uberに入るお金も増える。

ドライバーにもっと客を拾うよう強いる同社の手法の1つは、「人間は目標に大きな影響を受ける」という行動科学の知見のようだ。ドライバーがアプリからログアウトしようとすると、「もうひと踏ん張りで大きな目標が達成できる」というアラートを表示する。また、現在の乗客を目的地に送り届ける前に、次の乗客の情報がドライバーに通知される。
そういったことから、稼働量を多くしているらしい。

これはたしかにドライバーの給与を上げることにも繋がっているのだろうが、本当にドライバーはそれを望んでいるのだろうか。自分でやめようと思ったタイミングは、すでに十分にドライバーとしてやったから、なのではなかろうか。むしろ、Uber側の搾取に近いナッジだ。



このように、『良いナッジ』と『悪いナッジ』が存在する。
では、その差はなんなのだろうか。



この問いに対して、
ハーバード・ビジネススクール教授のFrancesca Ginoが意識すべき指針を3点挙げている。

1:透明性があり、決して誤解を招かないナッジであること
2:対象者がそのナッジの影響を受けても、それを終了させる選択が容易であること
3:奨励するその行動によって対象者がさらに幸福になる、という強い信念が根本にあること
ーUber Shows How Not to Apply Behavioral Economics
https://hbr.org/2017/04/uber-shows-how-not-to-apply-behavioral-economics

彼女曰く、ここに「他者の行動を促すこと」と「他者を操ること」の境界線があるとのことだ。
特にこの3つ目、相手がさらに幸せになる、つまり相手が心の底から喜ぶことをするという前提に立たねばならない。。。というのはとても強いメッセージだ。



この3点の指針を本ブログの冒頭のLAVAの施策の話に紐づけてみると、個人的にはかなり合致しているように感じている。

単なる1人の利用者がこう感じているのだから、同じように感じる利用者はかなりいることだろう。


双方の利害が一致する局面は実際にはたくさんあるはずだ。
利用者がより一層楽しくかつ体の調子が良くなったり集中力が高まったりリラックスできたりといった満足度が高くなればなるほど、会社としては利用者の毎月の契約数の維持及び増加を図ることができる。

世の中では、この『良いナッジ』が多く存在するサービスがより顧客を増やしながら拡大し、『悪いナッジ』が多く存在するサービスが顧客を獲得できずに消滅していくのだろう。

『行動経済学』が組織やサービスに適応すれば、世界はもっとオモシロく幸せに満ちたものになるのかもしれない。



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