雨がやむことを願う人は、別の時には太陽が陰ることさえも同じく願うのだろう。




『雨ってほんと嫌だよね』

『早く晴れればいいのに』

『濡れて本当に気持ち悪い』


先ほど、三軒茶屋を歩いていたら、そんな言葉が聞こえてきた。



確かに、台風の到来により雨が降りしきっている。

晴れていると心地よいけど、雨が降っていると気持ち悪い。

確かにそれも分かるけれど、こんな言葉を街中で聞く度に思うのだ。



雨だって、いいところがあるのに。




小学生の頃、国語の授業の時間に先生がこんな言葉を教えてくれた。

『甘雨』


「甘い雨?甘いのかな?」
、、、と思った記憶と共に、その後に先生が教えてくれたことがとても私の中に残っている。

『甘雨はね、あなたたちにとって、甘くて美味しい雨があるってことじゃないよ。
春になったら、花が咲き始めたり、緑が増えたりするでしょう。
そんな植物くんたちが成長するためには、雨が必要なの。彼らにいのちを与えてくれるんだよ。雨は。
あなたたちにとってはあんまり味のしない水かもしれないけれど、植物くんたちにとっては、とっても甘くて美味しい水なの。
それが、甘雨。
ね、植物くんたちには必要でしょう?』


なぜか、とても覚えている。

それから雨が降る度に、その雨を見て、その雨音を聞いて、「甘い雨なんだな〜美味しいのかな〜」と思うようになった。

と同時に、雨は雨でとてもいいものだと感じるようになったし、その様子や音を聞くことが好きになったのだ。



このような感覚は、昔の日本的、とでも言うのだろうか。

私が学んでいた茶道の世界では、このようにどんなものにも意味があり、それら全てを楽しもうという精神が宿っているような、そんな気がする。

雨なら紫陽花を摘んできて茶室に飾ったり、雫をイメージしたような和菓子を用意してみたりと、そんな具合にだ。



もちろん、誰しもがそのように考えなくてはいけないわけではないし、誰しもが「雨早くやんで!」と思ったことくらいあるだろう。

でも、別にそれならそれでその事柄を楽しんだり心地よく感じたりしたほうが人生豊かになるよなあと、あの小学生の時に『甘雨』を知った時から今に至るまで、1人で雨の中、傘をさす度に思うのだ。

ああ、甘雨。

と。





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