10年前のお姉さんの表情と言葉だけは、『真実』なのだと。そう、今は思う。



「勉強したくても勉強することができない子どもたちのために、ご協力をお願いいたします!」

なんとも久々に聞いたその言葉を発した人を探して、私の目は混雑した三軒茶屋駅の構内を見渡した。




『あしなが育英会』を、みなさんご存知だろうか。



あしなが育英会は、広く社会からのご支援によって、保護者が亡くなったり、著しい後遺障害のため働けない家庭の子どもたちを物心両面で支えることで、「暖かい心」「広い視野」「行動力」「国際性」を兼ね備え、人類社会に貢献するボランティア精神に富んだ人材を育成することを目的としています。

物的支援は、経済的理由によって高校、大学・専門学校などへの修学が困難な遺児らに奨学金を貸し出しています。また、東京と神戸で学生寮を運営し、貧困家庭の遺児でも大学進学ができるための支援をしています。

精神的な支援は、奨学生に対する教育と心のケアの「つどい」や主に中学生以下の遺児を対象とした神戸と東京のレインボーハウスでの心のケア活動。アフリカ・ウガンダレインボーハウスでは、エイズ遺児への心のケアと「読み・書き・計算」のテラコヤなどの事業をしています。

ーあしなが育英会とは
http://www.ashinaga.org/about/index.html




私は別にこの『あしなが育英会』の中の人でもなければ、ご支援をいただいたわけではない。

でも、ちょうど10年前、高校2年生の時に関わったことがある。


関東圏の中高生が集まってボランティアを行う学生団体に所属しており、子どもたちのお世話をする保育園のようなところでお手伝いをしたり、川辺や浜辺でゴミ拾いをするなどの活動をしていた。

その活動の1つが、『あしなが育英会』の募金活動のお手伝い。
よく、横浜駅の相鉄線口で道ゆく方々にご支援のお願いをしていた。

高校2年生の、土日。
部活がない明るい時間はひたすらやっていた気がする。

とくに、大きなモチベーションがあったわけではない。
別に、強い情熱があったわけでもない。

でも、「勉強したくても勉強することができない子どもたちのために、ご協力をお願いいたします!」と、叫んでいた。

まさに、三軒茶屋で出会った学生たちと同じように。



『あしなが育英会』の募金活動に初めて参加した日、我々の団体のメンバー以外に、26歳のお姉さんがいた。

中高生でもないし、あしなが育英会の人でもないし、どんな方なんだろう?

と疑問に思った私は聞いてみた。すると、私より少し背が低いその人は、少し私を見上げながら顔を少し右に傾けクシャっと笑いながら嬉しそうにこう言った。

『そうだね、私は高校生の時にこのあしながさんに助けてもらってね、お金を出してもらって学校に行ってたの。あれから10年して、恩返ししたいなと思って。』



裕福な家の生まれなわけではないけれども、高校まで学費も払ってもらっていたし、それが当然だと思っていた私は、それを聞いて
「そっか、そういう人もいるんだ」と思ったのと同時に、「とても素敵な考え方だな」そう思った。


もちろん私からすると随分大人に見えたし、もちろんそれはそうなのだけど、
その方と一緒に募金活動をする度にいろんな質問をして、随分面倒な男子高校生だったかと思うけれども、全部丁寧に答えてくれたことを覚えている。

勉強したいと思っても勉強できない人がいる、親から勉強しろ勉強しろと言われて育った私としては本当に新鮮で、かといって自分が勉強に対してモチベーションが上がったわけではないけれど、
そんな人がいて、そんな人がもっと勉強できるようになったらいいのに、そう思いながら募金活動をしていた。



正直、募金活動はしんどい。
基本的に誰にも見向きもされない。
もちろん、ご好意でお金をいただくのだからそんなに多くを望むこともいけないのかもしれないけれど。

結構、罵声を浴びることもあった。

「お前らの親が貧乏だから悪いんだろ」
「人様にお金をせびるなんて、勉強せずに働けばいいでしょう」
「偽善ぶって、どうせ懐に入れるんだろ」

そういう言葉を聞くたびに、とても悲しい気持ちになったけれど、応援してくれる人も多かった。

「私もなかなか勉強できない家だったの。1人でも多くの子達が勉強できるようになったらいいわね。」
「(小さい子達が)お兄ちゃん、ぼくのお小遣い使って!」
「君たちがしていることは間違ってないから、頑張りなさい。みんなのために頑張ってくれてありがとうね。」

こんな言葉たちも、とても強く覚えている。



募金活動の全てが良い活動なのかは、私には分からない。
活動する彼らが働いて稼いで寄付する、というのが正しいのではないかと言われることもあり、それもそうなのかもしれない。

でも、あのお姉さんと同い年になった今の私は、振り返ってこう思う。
あの時に会った自分の10個歳上のお姉さんのあの表情と言葉を思い出すと、少なくともあの活動は1人の女の子を笑顔にしている。

それだけは、真実なのだと。


ーあしなが育英会 HP
http://www.ashinaga.org/




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