店員はオーナーに言った。「働き始めたきっかけは、あの時の注文から。」
「僕、ここで働く前に一度、来たことがあったんですよ。」
とあるカフェで、20代前半の男性はいつものようにのんびりとそう言った。
そこは世田谷駅の近くにあるカフェ。
毎日深夜2時くらいまでやっていて、小さく静かながらもお客さんが途絶えることのほぼないお店。
そんなお店で昨晩、まかないであろう何かを食しながら、20代前半の男性店員はこう言った。
「へえ、その時なにか頼んだの?」
オーナー、と呼ばれる50代くらいの男性が続ける。
「ピラフ、食べたんです。」
「ああ、ピラフね。そうなんだ。」
オーナーはそう言って、お皿をかちゃかちゃと洗う。
そこでふと、思いついたようにこう聞いた。
「ピラフ、美味しかった?」
男性店員は、口に運んでいたまかないをごくんと音を鳴らしながら飲み込んだあとに、少し気恥ずかしそうにこう言った。
「僕がここのバイトに応募したのって、なんでか知ってます?」
オーナーは、知らないなあと呟く。
「そのピラフが、本当に美味しかったんですよ。こんなにピラフが美味しいお店で、そのオーナーのところで働きたいなって、思ったんすよね。」
「そうか」
そうオーナーは言って、お店の裏に向かう。
そんなタイミングでお勘定を済ませようとオーナーのほうに向かうと、そんな私の存在に気がついたオーナーがお金を受け取った。
少し目を赤くしながら、とってもとっても嬉しそうな表情で、いつものようにカフェの雰囲気には合わないようなハッキリとした声で「ありがとうございましたああ!」と言う。
そのあとで、いつもマイペースでのんびりとした男性店員もいつものように「ありがとうございました〜〜」と、ゆっくり私に向かって間延びした感じで言う。
そんなお店が、私は好き。
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